「SR サイタマノラッパー」シリーズ以来10年ぶりの自主映画「シュシュシュの娘」。入江悠監督インタビュー

コロナ禍で全国のミニシアターが苦境に立たされた2020年。「AI崩壊」「ネメシス」など数多くの映画やドラマを手がける入江悠監督が立ち上がった。「仕事を失ったスタッフ、俳優と、商業映画では製作しえない映画を作ること。」「未来を担う若い学生達と、あらたな日本映画の作り方を模索すること。」「苦境にある全国各地のミニシアターで公開すること。」を夢に掲げ、製作したのは自主映画「シュシュシュの娘」。先日、新潟での舞台挨拶を終えた監督に作品が誕生したキッカケ、製作秘話などを聞いた。

「SR サイタマノラッパー」シリーズ以来10年ぶりの自主映画ですが、製作しようと思ったキッカケを教えてください。

最近はメジャー映画の製作が続いたんですけど、昨年コロナで仕事が何本か無くなって、1年暇になったことがキッカケで久しぶりに自主映画を撮りたいなと思いました。その前から全国のミニシアターがコロナの影響でかなり経営的に厳しくなったっていうのもあって個人的に応援する活動をしていたので、自主映画を撮って映画館を自分で回ることにしたんです。

なぜミニシアターに焦点を当てたのですか?

映画館全般が大変な時期ではあったんですけど、特にミニシアターは個人で経営されていることが結構多くて、自粛要請を受けるとあっという間に倒れちゃう。そこらへんが大きな映画館と違うところですよね。全国にそういう映画館っていっぱいあって、これは応援しないと本当にまずいなと思いました。この作品に出ている井浦新さんもそうですし、僕ら映画監督もそうですしどこかみんな危機感を持っていて、なんとかコロナ禍を生き延びてもらおうって思っているんです。それはやっぱり自分が舞台挨拶をさせてもらったり、映画館のスタッフさんと交流があったり、舞台挨拶に来てもらったお客さんとしゃべったりだとか、お世話になった経験があるからであって。感染拡大を受けて、すぐに各地の映画館の方の顔が浮かんだっていうのも製作のキッカケではありますね。

全国一斉上映でしたが、反応はいかがでしたか?

みなさんに喜んでもらえたのは嬉しかったですね。実は僕が舞台挨拶に来て満席になったのは、東京以外だと新潟が2館目なんです。やっぱり定期的にシネ・ウインドさんにお邪魔しているからだと思うんですけど、僕が舞台挨拶に来るから観に行こうって来てくれた方がいたりとか、お客さんとの距離が近いのもミニシアターの良さだと思うんです。常連さんの中には、10年ぶりに再会した方もいました。

映画の製作資金は入江監督自身が負担した他、クラウドファンディングも実施されたそうですね。

クラウドファンディングは普段あんまり使ったことがなかったんですが、今回ミニシアターが大変だってことをいろんな人に知ってもらいたいと思い、話題作りも含めて利用しました。リターンは、普通だったらTシャツなどを送ったりするのが一般的ですが、賛同してくれたみなさんに一緒に映画作りに参加してもらってる気持ちになっていただけたらと思って、ボランティアスタッフの若い子たちに相談しながら「自分だったらどういうものが嬉しいか」っていうアイディアをもらって。ご飯をごちそうする券や、クランクアップに立ち会ってもらう券とか、普段あまりないようなユニークなものにしました。

スタッフやキャストは監督が自身で募ったと伺いました。

昨年は俳優の方も演劇や映像の仕事が無くなって精神的に追い込まれた方が多かったので、できるだけ多くの方にチャンスを与えたいと思い自分のブログに募集要項をアップしたんです。そしたら意外とSNSで拡散していただいて、2,500人以上の方から応募がありました。主役の福田沙紀さんもその中の1人です。

福田さんもご自身で応募されたんですか?

そうなんです。有名な方ですが個人で応募してくださって。決めてとしては映画の中にダンスシーンがあるように、彼女のダンスが独創的でよかったんです。あと、すごく目力が強くて印象的だったのもよかったですね。映画の後半がちょっと特殊な設定になってくるんですけど、目が重要になってくるので主人公・未宇役には福田さんしかいないと思ってオファーしました。

スタッフにはどのような方が参加されたのですか?

スタッフにはコロナの影響を受けた方や大学が休校になった学生が集まりました。その中には映画の道を目指す学生さんがけっこういて、そういう子がプロに混じって映画の作り方を学んで、完成した後にプロの現場に行っている子がいたりとか、自分で自主制作を作る子がいたりとかキッカケになったのはよかったですね。一緒に作っている時はプロの仕事を要求するのですごい厳しかったと思うのですけど、それを最後までやりきったっていうのはすごく自信になったと思います。

作品を手がける上で、製作、脚本、監督、編集まですべ て監督自身がされたということでしたが、思い出に残ってい ることはありますか?

コロナの中でどうやって工夫してシーンを作っていくかとか、撮影場所を借りるかとか、そういうことがひとつづつ達成できた時は楽しかったです。反対にみんなの健康も心配なのでしんどいところもありました。

コロナ禍で大変だったと思いますが、撮影現場作りで工夫されたことはありますか?

東京などで1人暮らしをしている若い子の中には、感染症拡大で孤立しちゃったりする子が多かった。だからせめていいものを一緒に食べて、ゆっくり休む時間をとって、元気に毎日を過ごせるようにと現場作りも工夫しましたね。

 製作秘話があれば教えてください。

最後に大きなアクションがあって、俳優の吉岡睦雄さんが土手を転がるシーンがあるんです。「演じているのは本人なんですか?」って聞かれることがあるんですけど、本人なんです(笑)。あのシーンを撮る前は何回も下見をしました。夏になると土手ってすごい草が伸びるんで「転がった瞬間に姿が見えなくなるぞ」とか「今だったら草がちょっと枯れてきたから撮れるぞ」とか毎日ハラハラしながら見に行って。1回しかできないシーンだったのであの日だけカメラを2台出しましたね。

気に入っているシーンはありますか?

福田さんが踊っているシーンでしょうか。僕、ダンスにハマっていて。ダンスって昔のサイレント映画でよくあったんですけど、すごく映画的だと思うんです。「SR サイタマノラッパー」のときもそうですけど自分ができないことを俳優さんがやっているのを見るのが好きなんです。ダンスは年齢とかで全然変わってくるので、今回福田沙紀さんの年齢の、あの役でのダンスを撮れたっていうのはよかったですね。

あらすじや予告編に政治や社会問題などを風刺したシーンがあって、観る前は重い内容だと思っていました。ですが、観てみるとユーモアがあるシーンが多くておもしろかったです。

題材的にも政治的なことっていうのはメジャー映画だと自主規制するんですが、今回誰もそこにNOという人はいないので描きました。僕は映画って入り口でいいと思っているんです。いろんな現実で起きている事件とか問題に対して答えを描くには2時間って短いんですよね。でもフィクションで描くことで「2020年とか2021年ってこんな問題が日本で起きてたよね」って思い出してもらったり、「あれってどうなってるんだろう?」と興味を持つキッカケになればいいなと思っていて。なので、ぜひそういうことに興味がない人にも気軽に観に来てもらいたいです。

「主人公・未宇のアッと驚く正体についてはネタバレ禁止」と伺ったのですが、どんな変化に期待して観るとよいのでしょうか?また「シュシュシュの娘」というタイトルにも謎が隠されているのでしょうか?

映画を観てもらうとわかります(笑)。この映画には、ミニシアターで観て納得する体験をしてもらいたいなと思ってすごい謎を散りばめているんです。今のお客さんってなんとなくゴールを想定して映画館に行く習慣があって、それってすごいもったいないと思うんですよ。映画って本当は、映画館の前に貼ってあるポスターを見て「ちょうど時間が空いてるな」って思って入って観るみたいなのが一番楽しいと思うんですけど、今みなさんは「2時間後に泣けます」とか「笑います」っていうゴールを提示されないと行かなくなってますよね。僕は未知のものに飛び込むみたいな体験が一番楽しいと思うので「シュシュシュ」ってなんだろうって感じで来てもらえると嬉しいです。

最後に、本作を通して読者に向けてメッセージをお願いします。

PROFILE

入江悠 (いりえゆう)

1979年、神奈川県生まれ、埼玉県育ち。03年、日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
09年、自主制作による「SR サイタマノラッパー」が大きな話題を呼び、ゆうばり国際ファンタスティック映画オフシアター・コンペティション部門グランプリ、第50回映画監督協会新人賞など多数受賞。その後、同シリーズ「SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム」(10)「SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」(12)を制作。「劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ」(11)で高崎映画祭新進監督賞。その他に「日々ロック」(14)、「ジョーカー・ゲーム」(15)、「太陽」(16)、「22年目の告白」(17)、「ビジランテ」(17)、「ギャングース」(18)、「AI崩壊」(20)、「聖地X」(21)など。ドラマ演出はWOWOW時代劇「ふたがしら」(15)、「クローバー」(11)、「みんな!エスパーだよ!」(13)、「ネメシス」(21)等。


INFORMATION

シュシュシュの娘

劇場 : 新潟・市民映画館 シネ・ウインド
公開日 : 2021/8/21~9/10
出演 : 福田沙紀、吉岡睦雄、根矢涼香 他
電話番号 : 025-243-5530
公式HP : https://www.shushushu-movie.com
©︎ Yu Irie & cogitoworks Ltd.

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投稿者プロフィール

金子
金子ライター
レポーター&ライター。旅行、寺社仏閣、祭り、伝統文化をこよなく愛する。夢は狐の嫁入り行列で花嫁役になること。新潟・市民映画館「シネ・ウインド」の編集部にも所属している。